大会長挨拶

一般社団法人日本透析医学会 関連地方学術集会
第72回 長野県透析研究会学術集会
大会長 赤穂 伸二
(松本市立病院 院長補佐・腎透析センター長)

第72回長野県透析研究会学術集会開催にあたり

 

 まず本年元日に発生した能登半島地震に際し、被災された方々や透析関係者には衷心よりお見舞い申し上げ、一日も早い復旧をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様の健康維持と復興支援に尽力されている多くの方々に心から感謝致します。
 第72回長野県透析研究会学術集会のテーマは「高齢化社会に根ざすwell-beingな腎代替療法を考える」とさせて頂きました。WHO憲章では“健康とは肉体的、精神的及び社会的にも満たされた良好な状態”とされ、SDGsの中では“GOOD HEALTH AND WELL-BEING”が掲げられています。医療においても治療やケアのみだけでなく生きがいや満足度などを含めたQOL維持や幸福感がwell-beingに繋がっていくことを意識しなければなりません。
 高齢化社会においては独居などの生活環境や通院・入所などの経済環境の課題が多く、更に低栄養やサルコペニア・フレイル・認知症などの多様な病態も加わるため、栄養介入や腎臓リハビリなどの多職種による包括的医療や看護・介護・福祉との連携がより重要かつ課題となっています。透析医療に関わる医療財源や社会保障の現在的課題はあるものの、多くの医療関係者の弛まぬ努力こそが世界に冠たる透析医療の礎であると感じます。
 医療者は、疾病に対して医学的に最善の治療を行い癒すと同時に、患者個々の人生観や意思を尊重して寄り添うことが求められます。そのために十分な相互理解、患者を中心とする医療チームでの対話が重要です。EBM(Evidence Based Medicine)のみだけではなく、NBM(Narrative Based Medicine)の姿勢こそが大切です。医療者と患者や家族の治療満足度や健康尺度は必ずしも同一ではなく、疾患や生命予後の観点以外にも精神的・社会的QOLも意識した上で、人生会議、共同意思決定、保存的腎臓病治療含めた腎代替療法選択、人生の最終段階も見据えた治療やケア体制なども個別化していくことになります。より最適な透析医療技術などの確立、コロナ禍を経て見直された在宅医療やIT・遠隔診療の拡充、社会環境の整備などの期待は多く、地域包括ケアシステムの充実を目指すために、今回、高齢化社会に根ざすwell-beingな腎代替療法の在り方を考える次第です。
 今大会は一般演題、長野県臨床工学技士会による特別講演、シンポジウム、セミナー(ランチョン、スイーツ)などの多くの企画に加えて、特別講演に透析医学会前理事長で日本腎代替療法医療専門職推進協会理事長の立場である埼玉医大の中元秀友先生を招請して“高齢化社会に向けた腎代替療法の未来”について多くの示唆に富む幅広い講演が期待されます。
 今回からはwithコロナの集会として完全な対面開催となるためにより多くが参加され、これまで以上に活発な討議や情報交換の場になって、有意義な学術集会になることを期待致します。